2022/04/04
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自閉症を持つ子供たち・家族への理解

自閉症を持つ子供たち・家族への理解

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私は小児科医ですが、小児科の中で新生児を専門とした新生児科医です。新生児科医というと暗い静かな新生児集中治療室(NICU)で小さな赤ちゃんの治療をしている医師と思われているかもしれません。それは間違いではありませんが、同時にNICUを退院した赤ちゃんの発達を小学生低学年まで見ていく「発達外来」という外来でフォローしています。 


早産は自閉症の発症リスクという事は知られています。2020年に弘前大学が発表した国内の5歳での自閉症発症率は1.7%とされましたが[1]、早産だと7%へ上昇するというデータ [2]もあります。こういう背景から我々新生児科医師は普段から多くの自閉症の子供達や御家族に接しているのです。


自閉症とは「発達の偏り」

自閉症は発達障害の一つで、社会との交流、コミュニケーション、想像力といった発達分野で偏りがあるものを指します。また「感覚」の偏りも見られる場合もあり、社会で生きていく上で少しの刺激に極度の疲労を感じてしまうケースもあります。[3]こういった特性自体は生涯続きます。


注意したいのは、この特性を持っている事自体が障害を意味するわけではないという事です。この特性を持ちながら社会の中でうまく生きている人もいます。しかし逆に社会に出てみてこの特性が明らかになった人もいます。子供達の発達を診ていく中で大切なのは2つあり、「その月齢相当で見られる発達があるか」と「自閉症で見られる症状がないか」です。つまり発達に偏りがないかどうかを診るのです。


自閉症で原因が明らかな場合はほとんどありません。当然、親の育て方の問題もありませんし、本人の努力不足ではありません。また、その症状を抑える特効薬や手術などはありません。そういう背景の中、自閉症と早期に診断する事には大きな意義があると言えます。自閉症への治療・支援のゴールは、本人が社会の中で不自由なく自立できること、そしてその生活の質を最大限に高めることにあります。世界で有名な介入としてTEACCH Autism ProgramによるStructured Teachingという方法があります。これは日本語では「構造化」と言われ、自閉症としての各々の特性に合わせて環境を設定することです。療育などで環境を整える事で子供達は成功体験を積み、持っている能力を最大限に活かしてやがては社会に自分の伸ばした能力で適応していく。その姿を目指していきます。



自閉症を持つ子供たち・家族への理解

我が子が突然自閉症と診断された場合、ご両親のそのショックの大きさは測りきれません。また長い間、一緒に過ごす母親が我が子に対して異変を感じていて、医療者が「もう少し様子を見ましょう」と介入を先延ばしにして診断がつく頃には心身共に疲弊し、診断時には安堵し涙を流すというケースもあります。


自閉症の子供を支援する時に大切なのは子供を支援するのももちろんですが、同時に養育者や兄弟など家族への支援も忘れてはいけません。自閉症のお子さんを持つ両親の感じる育児のストレスは世間が思っている以上に大きく、当然全員そうではありませんがそういう育児困難は育児放棄(ネグレクト)のリスクにもなりかねません。そのため、早期からの療育や育児援助は健全な親子関係を保つにはとても大切なことです。


と言いつつ、養育者ごとに介入のタイミングが異なり、早ければ早いほど良いわけではありません。そのご家庭毎にタイミングを見極めるのも支援者の大切な視点と言えるでしょう。


最後に、一番大切なことは自閉症に対する社会の理解です。自閉症のご家族と日々向き合っていると、社会が未だに自閉症に関して知られていない影響で、傷つく言葉を浴びせられるご家族のケースを耳にします。


「なぜ子供があんな事してるのに親が注意しないの?」


などの安易な言葉は当事者や家族を苦しめているナイフのような言葉です。人は無知のあまり他の人を気付けてしまうことがあります。まずはこの特性を知って、社会全体で理解し様々な子供達の成長を見守って行きましょう。



  1. Saito M, Hirota T, Sakamoto Y, Adachi M, Takahashi M, Osato-Kaneda A, et al. Prevalence and cumulative incidence of autism spectrum disorders and the patterns of co-occurring neurodevelopmental disorders in a total population sample of 5-year-old children. Mol Autism. 2020 May 14;11(1):35.
  2. Agrawal S, Rao SC, Bulsara MK, Patole SK. Prevalence of Autism Spectrum Disorder in Preterm Infants: A Meta-analysis. Pediatrics. 2018 Sep;142(3).
  3. Wing L. Reflections on opening Pandora’s box. J Autism Dev Disord. 2005;35:197-203.
  4. 内山登紀夫. 発達障害診療ハンドブック 2018.中山書店

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