糖尿病に対する偏見を解く【アドボカシー活動】とは?
糖尿病と聞くと「本人がだらしないからでは?」、「寿命が10年短くなるよ」、「必ずがんになるよ」などという声もたまに耳にします。
社会における糖尿病の知識不足やSNSなどによる間違った情報の拡散もあり、糖尿病をもつ人は、社会的偏見による差別にさらされていることが問題視されています。自身が糖尿病であることを告白すると偏見をもたれるケースもあるため、隠してしまう方もいるのです。
偏見による差別は、周りの人々の反応だけではありません。就職や住宅ローン審査への影響、低いエビデンスの治療・指導にもつながり、個人だけでなく社会的な問題に発展してしまいます。
日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病の正しい理解を促進し、糖尿病をもつ人が安心して社会生活を送れるための広報活動に取り組んでいます。これらは「アドボカシー活動」と呼ばれています。糖尿病協会の広告を目にした方もいるかもしれません。
https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/advocacy_leaf.pdf
アドボカシーとは直訳では「擁護、支援」という意味です。日本では、あまりなじみがない用語ですね。しかしアメリカでは、糖尿病診療・研究と並んで重要視される取り組みとなっています。
本記事を通して、糖尿病に対する偏見の悪影響や誤った情報の具体例などを学びましょう。糖尿病に対する姿勢を見直すきっかけになればと思います。
1.糖尿病に対する偏見の悪影響
わが国では、予備群を含む糖尿病患者数は2000万人以上もいます。糖尿病は、成人の4人に1人が関係する身近な疾患です。
糖尿病治療は、インスリン治療を含むさまざまな薬の登場で飛躍的に向上してきました。血糖コントロールを良好に保てば、健常者と変わらない生活を送れるようになってきています。
糖尿病に対する偏見で、どのようなデメリットがあるかイメージできない方もいるかもしれません。一部では、古い情報にもとづく判断で必要なサービスが受けられない、就職や昇進に影響する、などの不利益を受けるケースが報告されています。
偏見を放置すると、
①糖尿病であることを周囲に隠し、適切な治療のタイミングを逃す
②糖尿病の重症化が進み、医療費が増え社会保障を脅かす
③ますます糖尿病に対する偏見が強くなる
という悪循環に陥ってしまいます。
まず、糖尿病であることに対する誤った偏見で被害を受ける人々がいることを知っておきましょう。
2.糖尿病患者への誤ったイメージの具体例
①糖尿病患者は非糖尿病患者より必ず早死にする「糖尿病をもつ人の寿命が非糖尿病者より10年短い」など、誤ったメッセージを時折目にします。日本の統計上では、糖尿病患者の約70%は高齢者です。糖尿病が原因で亡くなる人の割合は、治療法の向上と共に改善されていると考えられます[1]。
しかし統計上の糖尿病患者には、糖尿病の指標であるHbA1cが6.5%以上で、糖尿病の疑いが非常に高い患者から低い患者まで、すべて含まれています。ですから、コントロールのよい方まで寿命が短いと、一括りにするのは間違いです。
②糖尿病患者はがんや認知症も発症するリスクが高い
高齢者における偏見は、糖尿病があるからというより、糖尿病治療の進歩により長生きできる患者が増加したことが原因と考えられています。糖尿病が原因でおきる合併症には「網膜症」や「神経症」があります。しかし年を取ると、がんや認知症などの、いわゆる併発症に注意が必要です。
日本糖尿病学会では「正しい治療を適切に続ければ、一病息災で長寿を全うできる。血糖コントロールを適切におこなうことで合併症発症を減らし、医療費削減にも貢献できる」をスローガンに社会に発信しています。患者が安心して治療を継続できるような、環境づくりを目指す必要があります。
3.医療者が気を付けること
耳が痛い話ですが、糖尿病になり長年放置すると「失明しますよ」、「足の切断になりますよ」、「透析になってしまいますよ」など合併症の恐ろしさを強調する医師もいます。人によりますが、患者自身の自覚を促す治療の方針が多かったと思います。
患者さんの置かれた社会的状況などを理解し、それにもとづく個々にあった適切な指導をおこなうという視点が足りなかったかもしれません。糖尿病に対するマイナスイメージを強調した情報が独り歩きすることで、社会における糖尿病に対する偏見が助長されてきた面はあるでしょう。
医療者も、いつも以上に糖尿病について目の前の患者がどのように感じているかを常に頭の片隅に置きながら、診断治療していく必要があると思います。
まとめ
この記事では、糖尿病に関する偏見とそれに対するアドボカシー活動を解説しました。
「健康」は人生にとって一番重要な事項のひとつです。毎日の食事や運動などで気を付けていても糖尿病になる方は身近にいます。病気をもっている方に偏見をもつこと、また患者自身が偏見を気にして治療機会を失うことは、その人個人だけでなく社会的にも大きな問題です。
糖尿病であることが恥ずかしい、悪いという考えが間違っていることを知ってください。一人ひとりが偏見をなくすことが、社会の健康につながります。
[1] 日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2016, 2016年
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【資格】
内科認定医
糖尿病内科専門医
内分泌代謝内科専門医