意外と知らない頭痛のはなし
頭痛に悩まされるという経験は、多くの方がお持ちではないでしょうか。日本において、慢性頭痛を有している人は4000万人に上ると疫学調査で推定されています[1]。
頭痛に悩む人にとって、頭痛が「当たり前の存在」になってしまっていることには弊害があると考えています。弊害とは「適切な診断や治療が行われないままになっていても気付かない」ということです。
そこで、知っているつもりでも意外と知らない頭痛の話をします。
2022年4月現在では、頭痛の診療ガイドライン2021が一番新しいものです。ですが今回は、ネットで皆さんも無料でアクセスできる慢性頭痛の診療ガイドライン2013を引用しています。
知っていますか?「薬剤の使用過多による頭痛」
頭痛をなぜ適切に診断して、適切に治療しなければいけないのでしょうか。「痛ければ痛み止めを飲めばいいんでしょ?」「いちいち病院にかかるのもめんどくさい」と思うかもしれません。われわれ脳神経内科医が、正しい診断と治療が何より大切と考える理由は「薬剤の使用過多による頭痛」の問題があるからです[2]。「薬物の使用過多による頭痛」は長いですがそういう病名です。もとは「薬物乱用頭痛」という呼称でしたが、違法薬物のようなイメージを持ってしまいがちなので名前が変わりました。
「薬剤の使用過多による頭痛」とは、頭痛の治療薬を過剰に使用すると、かえって頭痛の頻度が増えてきて、連日のように頭痛が起こってしまう状態です。頭痛の日常化により、痛いときに飲むだけでは済まず、痛みに対する不安や「今から大切な仕事だから頭痛が起こると困る」などという意識から、薬を早めに飲んだり頭痛がないのに薬を飲んだりする人がでてきます。そうなると薬の効果が弱くなり、頭痛がひどくなって薬を飲むという悪循環に陥ってしまいます。
- 1カ月に15日以上頭痛がある
- 頭痛薬を1カ月に10日ないし15日飲む
- 他の頭痛の診断基準に当てはまらない
頭痛薬を服用する日数は、薬の種類によって基準は異なりますが、以上の条件を満たすとこの「薬剤の使用過多による頭痛」と診断されます。原因として特に多いのが複合鎮痛薬です。複数の薬剤の成分が1錠にまとまっているタイプで、ドラッグストアなどで売っている頭痛薬に多いですね。
こう聞くと「あれ、これってひょっとして私のことでは……?」と思う方もいるのではないでしょうか。
ヘンズツーについて知ってほしいこと
さて、「私ヘンズツーなんです」という言葉は診療の場面でも日常でもよく聞くんですが、かなり誤解が多いなと常々感じています。
まず、偏頭痛ではなくて片頭痛です。診断基準は、日本頭痛学会のホームページ[3]でご確認ください。
端的に知っていただきたい、ポイントは以下の3つです。
- 片側に起こる頭痛が必ずしも片頭痛とはいわない
- 片頭痛という名前だけど両側の頭痛が起こることもある
- 閃輝暗点(せんきあんてん)という、目の前がキラキラする前兆がないこともある
きちんと診断基準に照らし合わせてみると「私ヘンズツーなんです」という人が必ずしも片頭痛でないことがあります。
実は緊張型頭痛というタイプの頭痛だったり、片頭痛もあるけれど緊張型頭痛も一緒に持っていたりすることも。最終的に「薬剤の使用過多による頭痛」に陥ってしまう……というパターンがかなり多いのです。逆に、片側じゃないから、閃輝暗点がないから、と市販の痛み止めで我慢していた人が実は片頭痛だったというパターンもあります。
当然、その人の状態によって最適な治療が変わってきますから、診断という初動が何より大切ですね。
まとめ
今回は「ヘンズツー」に関する話をしました。知っているつもりでも、意外と知らない内容もあったのではないでしょうか。
頭痛に慣れ「自分の体は自分がよく知っている」という思いのために、かえって頭痛がよくなるチャンスを逃してしまっていないか、振り返ってみていただければと思います。
普段から頭痛でお困りの方や「私『薬剤の使用過多による頭痛』かも……?」という心当たりのある方は、適切な診療と治療でもっと生活が楽になるかもしれません。頭痛診療のプロへの相談をご検討ください。
なお頭痛診療のプロというと日本頭痛学会の専門医が最適ですが、数は残念ながらそう多くはありません。お近くで見つからない場合は、個人的には窓口として脳神経内科を掲げている所でもよいのではと思います。