どうしてこんなにたくさんあるの?赤ちゃんの予防接種
子育て中のご家庭や出産が近づいている方は、予防接種のことを耳にすることも多いのではないでしょうか。少しでも感染症に苦しむ方を減らすために、予防接種の種類は増えてきています。たくさんの予防接種に不安を感じるのは、正常な反応です。
今回は、多くの方に知っていただきたい予防接種のお話を以下の3つにわけて解説します。
- 予防接種ってそもそも何ですか?
- 予防接種の効果
- 乳幼児のワクチンスケジュール
予防接種の大切さについて、ご理解いただければ幸いです。
1.予防接種ってそもそも何ですか?
予防接種は、感染したら危険なウイルスや細菌などの病原体について、体に予習させておくシステムです。この時に使われるものをワクチンと呼びます。ワクチンは、ウイルスや細菌を弱毒化もしくは無毒化したものです。体に取り入れることで、病原体と戦うための免疫をつけることができます。予防接種を受けることで、同じウイルスや細菌が体に侵入しても、免疫によってすばやく排除することが可能です[1]。
しかし、残念ながら100%免疫ができるわけではありません。少しでも確実に予防するために、多くのワクチンは何回か接種する必要があります。十分な免疫をつけることで、感染症で大変な目にあうお子さんは確実に減ってくるのです。
多くの方にとって予防接種の大切さは、少しイメージしにくいかもしれません。ここで少し予防接種の歴史に触れてみましょう。
予防接種の歴史
人類の歴史は、感染症の歴史といわれることがあります。エジプトのミイラにも、結核や天然痘(てんねんとう)の痕があるようです。ほんの200年ほど前までは、感染症によっておびただしいほどの犠牲者を出しても、原因もわからず祈るしかありませんでした。
転機となったのは、1798年に世界で初めて報告された天然痘のワクチン。牛痘(ぎゅうとう)という牛の感染症を利用したものでした。ここから、人類と感染症の戦いは大きく変化します。
世界中に予防接種のシステムが広がり、1980年にはWHOから天然痘の世界根絶宣言がなされました。それまで天然痘における死亡率は20-50%。生存しても失明などの後遺症を残すことがある恐ろしい感染症でした[2]。
今のところ、天然痘以外の他の病原体は根絶できていません。しかし、ワクチンで予防可能な感染症による死亡者は確実に減っています。もちろん、製造や開発中に問題がなかったわけではなく、一部の方が健康被害を受けたことも事実です。ただ、安全性や有効性も高められていることを理解しておきましょう。
2.予防接種の効果
予防接種に期待する効果は、主に3つです。- 自分への感染を防ぐ
- 感染しても、重症化を防ぐ
- 周りへの感染を防ぐ
予防接種の効果はとても大きいです。例えば、乳児にとって極めて危険な細菌性髄膜炎はヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの導入により、ほとんどみられなくなりました。それぞれ98.9%、90.0%減少しています[3]。
そして、この10年ほどで多くのワクチンが接種できるようになりました。医療現場では大きな変化が起こっています。ロタウイルスによる重症の胃腸炎、時には重症になる水ぼうそうなどで苦しむお子さんをみることは、ここ数年でほとんどなくなりました。
新型コロナウイルスやインフルエンザは、接種しても感染すると聞くことがあるかもしれません。しかし、実際には感染自体もある程度は予防でき、重症化を予防する効果もあります。
また集団免疫といって、みんながワクチンを接種することで感染者が出ても、他の人に感染させにくくなります。病気やアレルギーが理由でワクチンを打てない方も、実はワクチンにより守られているのです。
3.乳幼児のワクチンスケジュール
最後に、乳幼児の一般的なワクチンスケジュールについて説明します。2か月肺炎球菌①・ヒブ①・B型肝炎①・ロタ①3か月肺炎球菌②・ヒブ②・B型肝炎②・4種混合①・ロタ②4か月肺炎球菌③・ヒブ③・4種混合②・(ロタ③※)5か月4種混合③・BCG(ハンコ注射)8か月B型肝炎③・(地域によっては日本脳炎ワクチンも接種します)1歳MR①(麻しん・風しん)・水痘①(水ぼうそう)・おたふくかぜ①1歳1か月肺炎球菌④・ヒブ④・4種混合④1歳6か月水痘②(水ぼうそう)※ロタウイルスワクチンには、2回接種と3回接種のものがありますが、効果に差はないため医療機関によって使用するワクチンが異なります。
主な予防接種の一例を上記に示しました。これ以降は、3歳の時に日本脳炎ワクチン接種があります。その次は年長さん頃と少し期間があきます。
同時接種は、有効性や安全性に問題はないことが確認されているのでご安心ください[4]。適切なタイミングで免疫をつけるために、同時接種は欠かせないものです。
また副反応も心配な方が少なくないと思います。しかし、ほとんどの副反応は接種部位の腫れや発熱など一時的なものです。重い副反応はないわけではありませんが、極めてまれです。感染した場合のリスクの方がはるかに大きいため、予防接種はしっかりと受けましょう。
まとめ
この記事では、赤ちゃんの予防接種について解説しました。予防接種は、感染した場合に危険なウイルスや細菌から体を守るための大切なシステムです。接種する回数が多く、負担もあります。しかし、現在使用されているワクチンは有効性も安全性も高いことが確認されています。
赤ちゃんの予防接種に関しては、かかりつけの先生に相談し一緒に計画を立てることをおすすめします。
参考文献
[1] 日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=263
[2] 森戸やすみ. 小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK. 2019, 内外出版社.
[3] 石和田稔彦. 小児の細菌感染症の今. Phama Medica. 2021,39(8): 9-13
[4] 日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方. 2020 年 11 月 24 日 改訂版