小児科での保護者の離席について
「親が退室していれば、ルート確保※は何回刺したってバレない」
※点滴などのために血管に針を刺すこと
先日、Twitterでこのような発言が話題となり、多くの小児科医から疑問の声が上がりました。ツイキュアでは小児科におけるこうした処置の際の保護者の離席についてどっと先生に取材・インタビューを行いました。
---まずはじめに先生の自己紹介からお願います。
僕は現在、一般市中病院に勤務しており、基本的に新生児含めて小児科全般の診療にあたっています。専門はアレルギー・発達関連で10年目の小児科専門医です。直近は増えてきていますが、ここ2,3年は感染症が少なく、入院が必要になるケースは大きく減っており外来業務が主でした。
離席するケースについて
---ありがとうございます。まさに先生は今回のようなケースを日々臨床の場で診ているかと思いますが、小児科におけるルート確保などの処置時に保護者が離席するケースについてお聞かせください。
現在の小児科の処置では、保護者の方に同席頂くことも増えており、別室で行うことは減りつつあります。海外でもそうした形がスタンダードになりつつ、それらに関連する研究もあります(注1,2)。個人的には思ったより退室をお願いしている先生が多いのだなとは思いましたが、この辺りは世代や地域差の違いもあるかもしれません。ただやはりご家族とお子さん本人の様子次第で例えば、不安がすごく強そうなご家族であったり、注射が苦手なパターンであったり、または甘えからお子さんがお母さんを叩いてしまったり、保護者側の安全を保てなそうな場合などは離席をお願いしているケースもあります。
---Twitterでは保護者が近くで見ていると「親が助けてくれない」というトラウマとなるというお話がありました。
僕も初期研修の一番最初の頃から数年はそのような形で教わりました。確かに例えばお父さんがぼーっと立っているだけの様子を見てしまったら悲しいのかなと思います。ただ実際小さいお子さんがどう感じてるか読み切れない部分があるのも事実です。そこで私の場合は同席する親御さんにはお子さんの好きなキャラクターを見せたり、動画であったり、声かけであったり、そういった形で一緒に参加してもらうことでトラウマになることは防げるのではないかなと考えております。
---保護者の退室中はどのような流れで処置が進むのでしょうか。
保護者の退室中でも、処置の流れは基本的に変わりません。スタッフがしっかりと患者を固定することで、事故のリスクはより低減されます。また親御さんがいない時でも動画を流してあげる等、そういった少しでも気を紛らわせられるようなディストラクション(遊びなどを通じて五感を刺激し、処置中に子どもの気を紛らわせる方法)を行うようにしています。例えば私の場合、別室でも1歳前後の子にアンパンマンを流したりしていますが、これは結構、うまくいくことが多いです。泣き時間が短くなったり、採血自体気づかずに終われることも稀にあります。
いずれの場合にしても処置後はなるべくすぐに頑張ったねとしっかり声をかけ認めてあげる、褒めてあげる、そういったコミュニケーションを大切にしています。
---医師側の視点では今回の件をどのように見ているのでしょうか。
小児科においてルートの確保を何度か失敗してしまうことは、どうしても避けられないケースがあると思います。これはお子さんが小さければ尚更です。しかしやはり一般的な方が不快感や不安を感じるような話を、医師が公開アカウントでするのは望ましい態度ではありません。特に最近は研修医の先生のものが目立っておりますが、難しい問題であると感じております。
過度に不安を感じないように
---今回の件でTwitterには不安を覚えてしまった方が少なからず見受けられました。そうした方へメッセージをお願いします。
赤ちゃんの点滴を取るのはそれだけでも少し難しい処置なので、失敗してしまうことや時間がかかってしまうことはどうしてもあり得ることですし、ご不安があるところだとは思います。ただ「何度も刺さなければならなかった」「子どもがどれほどのストレスを感じてしまったか」といったことは、私たち小児科医にとって大いに悔いることです。基本的にそういったことは親御さんにもお伝えしますし、誠実に対応していることがほとんどなので、過度に不安を感じる必要はないかなと思います。どうか安心して頂ければと思います。
参考文献
(1)Merve Azak, Gözde Aksucu, Seda Çağlar,
The Effect of Parental Presence on Pain Levels of Children During Invasive Procedures: A Systematic Review,
Pain Management Nursing,
2022
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1524904222001011
(2)Laura Palomares, Iván Hernández, Carmen Isabel Gómez, Manuel Sánchez-Solís,
Parental presence during invasive pediatric procedures: what does it
depend on?,
2023
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9991004/
どっと小児科 先生
地方の総合病院勤務、平成生まれの小児科専門医。専門はアレルギー・発達関連。アレルギー過疎地域で地道に活動を続ける。自身も子育て中。