2023/02/18
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【リエゾン その3】〜父親編〜病気になった我が子に会えない苦しさ

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【はじめに】

大学病院は

重い病気を抱える子ども・家族が治療を行う場所であり,

医学生や研修医をはじめとした若い医療者に教育を提供する場所でもあります.


この記事は,

そんな場所でリエゾンを行う小児科医として働く=Dr.NK=

・子どもが病気になるということ

・病気が子どもや家族に与える影響

・病気を抱える子ども・家族の心の世界

について書いた記事です.


今回は【父親編】です


我が子が病気になる, それはお父さんにとって

・どんな体験

・どんな影響を及ぼすのでしょうか?


仕事を頑張りながら,病気と戦う子ども, 

子どもを支えるお母さんを守っているのでしょうか?


現実の親子/家族の世界はとても複雑で,生々しく,苦しいものなのです.


【お父さんにとって, 我が子が重い病気になる】ということはどのような体験なのでしょうか?


この記事を読んで,病気を抱える親子の現実, 心の世界を少しでも理解し,

そんな状況に陥っている親子に手を差し伸べていただけたらな, と思います.


この記事は

<【リエゾン その1】それは病気の子どもを支える大事な仕事>

<【リエゾン その2】〜母親編〜我が子が病気になるということ

の続きの記事です.

もし<その1><その2>を読んでいない方は上記リンクから記事を読んでから, もう一度戻ってきていただければと思います.


【コロナになってからの小児病棟】

コロナが流行してから, 多くの病院では感染症が広がることを防ぐために,面会を禁止しています.


小児病棟ではお子さん達の成長や発達への影響を最小限に抑えるために, 親御さんの面会を許可しています.


しかし, それでも両親二人ともの面会が許可されている場合は少なく, 面会が出来るのは両親のうちの一人だけとなっています.


お母さんか, お父さんか,どちらが面会をしてもいいのですが,

現実にはお父さんが面会されていることは非常に少なく,

お母さんだけが面会する形になっています.


【父親にとって我が子が重い病気にかかるという体験】

最初の入院

あなたはKくん(11歳)のお父さんです.


1年前の夏, 息子のKくんの【白血病】が分かりました.

食欲が落ちるなど, 体調が悪かったKくんがかかりつけの小児科にかかることを奥さんから聞いていましたが, その日のうちに大学病院に受診.

そのまま大学病院に入院することになりました.


あなたは会社を途中で抜けて病院に向かい, 奥さんと一緒に担当医から話を聞きましたが, すでに病棟に入院したKくんとは会うことはできませんでした.


そこから3週間, 奥さんが病院に泊まり付き添うことになり,

Kくんと奥さんの洋服や下着, 生活用品,タオルを家から届けました.

普段, 自分の洋服や下着がどこにあるのかはわかっていましたが,

Kくんや奥さんのものがどこにあるのか, 奥さんの生理用品は何を買えばいいのかは流石にわからず, 奥さんに教えてもらいながら, なんとか用意しました.


そして, Kくんの弟, 7歳のSくんの面倒を見ることになりました.

最終的には奥さんの実家にSくんを預かってもらいましたが,

最初の3日間はSくんが産まれてから初めて, 二人きりで過ごしました.


Sくんを起こし, お母さんに会えなくて泣いているSくんをなだめ,

Sくんを小学校に送ってから会社に行き, 仕事中には奥さんと連絡をとってKくんの様子を知り, いつもより早めに仕事を上がらせてもらい, Sくんを迎え入れて,,,


たった3日ですが, とても大変な3日を過ごしました.


Sくんを預けてホッとできると思ったら,

襲ってきたのは強い孤独感と不安でした.


いつもは奥さんとKくんとSくん, 二人のヤンチャな男の子がいて, 隣の家から苦情が来るのではないかとヒヤヒヤする程, 賑やかでした.


ただ, Kくんと奥さんが病院に行き, Sくんを預け,

たった一人, 家で過ごしていると,,,

『Kは大丈夫なのか?』

『Sにも病気があるのではないか?』

奥さんからの連絡の間隔が少し開くだけでそんな不安に襲われました.


自分はどこも悪くないはずなのに, 寝れない毎日が続きました.


Kくんの入院から3週間経って, 奥さんとSくんが家に戻ってきました.

3週間, Kくんに付き添ってくれた奥さんをサポートしようと, 一生懸命, 奥さんの話を聴きました.


入院中のKくんをスマホのテレビ電話で応援しようと思いましたが, Kくんがお母さんである奥さんや, 弟のSくんと話したいと言うので, Kくんの気持ちを優先しました.


Kくんの病気がわかってから, Kくんのためにお母さんである奥さんが時間を作ることが必要だと, 奥さんと二人で話し合い, 奥さんは仕事をやめ, お父さんであるあなたが, 家計を一人で支えることになりました.


残業を増やし, 家に帰る時間, 家族と過ごす時間は減りましたが,

それでも『これが自分が家族のために果たすべき役割だ』と信じて歯を食いしばって頑張りました.


そうやって過ごす中, Kくんの病状はよくなり,

春になってKくんが退院できて,『自分の頑張りも家族の頑張りも報われた』 と思えました.


しかし, 退院から3か月程経ったタイミングで行った診察で

再発していることがわかりました.


2回目の入院〜『Kが薬を拒否した』〜


そして, Kくんの面会から帰ってきた奥さんから, こう言われました.

「昨日,Kが『抗がん剤を飲みたくない』って言ったんだって」


あなたは

「Kは大丈夫なのか?」

「薬はちゃんと飲んだのか?」

そう, 奥さんに聞きました.


すると奥さんからは

Kのことしか心配じゃないわけ?」

「私だって辛いのよ, どうすれば良かったわけ?」

「子どもがこれだけ大変な状況で,よく平気で働けるわね」

そう言われました.


これまで耐えていたあなたも

「子どものことが気になるんだよ」

「こっちは家族のために働いているんだよ」

「子どもと会わずに働くこっちの気持ちが分かるのか」

そう, 怒鳴り返してしまいました.


◆お父さんであるあなたは,怒鳴ってしまいましたが,

 怒鳴ってしまったあなたが悪いのでしょうか?

◆そして, このお父さんとお母さんの会話をもしKくんが見たら,

 Kくんはどんな気持ちになるのでしょうか?


子どもが病気になると言うことは,

子どもだけでなく, お母さんだけでなく,

お父さんにも大きな影響があるのです.


もちろん, 病気になったKくんが悪いわけではありません.

Kくんのためにも, お父さんを支え,お父さんとお母さんの関係を守る必要があるのです.


【最後に】

【病気になる,と言うことは人生が変わる体験】です.

そして,

【家族が病気になる, と言うことは

 家族の人生も変わる体験】なのです.


残念なことですが, 子どもの病気や入院をきっかけに,

ご両親が別々の道を進むことも珍しくありません.


お母さんとお父さんの役割は違います.

その違いが温度差になり, 温度差は広がります.


子どもの罪悪感を増やさないためにも,

【子どもが帰る場所である, 家族の関係を守る】.


これも小児科医の, リエゾンを行う医師の大事な仕事なのです.


ここまで読んでくださって, 本当にありがとうございました🌟


次回は

【リエゾンとは その4】〜きょうだい編〜です

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※この記事に書いてある登場人物は架空の人物です.

でも, この記事の中にあるやりとりは, 

   僕が小児科医としてリアルに体験したやりとりをもとに作られていて,

そう意味ではある意味とてもリアルです.

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専門は
•小児の心身症
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【公認心理師】の資格も保有してます.

3次救急を行っている当直医としても働いています.
お産の立ち会いにおける新生児の蘇生, けいれん, 呼吸器感染症, 喘息, 胃腸炎の対応なども行っています.

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