2023/02/25
thumbnail

【リエゾン その4】〜きょうだい編〜兄弟が病気になった子どもの生活はどう変わるのか?

4

【はじめに】


【重い病気を持つ子どもの“きょうだい”は

 希死念慮(『死にたい』という気持ち)を抱くリスクが高い】


これは小児科の最も有名な教科書ネルソンに書かれている一節です.


重い病気を持つ子どもも苦しいのですが,

きょうだいも苦しい思いを抱えているのです.


この記事は

重い病気を抱える子ども・家族が治療を行う場所であり,

医学生や研修医など,若い医療者に教育を提供する場所でもある

大学病院で働く=Dr.NK=

・子どもが病気になるということ

・病気が子どもや家族に与える影響

・病気を抱える子ども・家族の心の世界

について書いた記事です.


今回は【きょうだい編】です.


※重い病気や障害を持つ子どもの兄弟姉妹のことを

“きょうだい”と言います.

兄・姉・弟・妹, どの組み合わせも意味する言葉として

ひらがなで “きょうだい” と表現されます.


この記事は

【リエゾン その1】それは病気の子どもを支える大事な仕事

【リエゾン その2】〜母親編〜我が子が病気になるということ

【リエゾン その3】〜父親編〜病気になった我が子に会えない苦しさ

の続きの記事です.

もし<その1〜3>を読んでいない方はリンクから記事を読んで戻ってきていただければと思います.


【兄弟が病気になるということ】

【お兄ちゃんが入院した】

Kくん(11歳)とSくん(7歳)は仲の良い兄弟でした.


喧嘩をすることもありましたが,

一緒に遊んで二人で過ごすことが, 二人にとって当たり前の毎日でした.


しかし1年前の夏, お兄ちゃんのKくんが病気になったことで,

Kくんの生活だけでなく, 弟のSくんの生活も一変しました.


外で遊ぶのが大好きだった, お兄ちゃんが外で遊ばなくなり,

お兄ちゃんが小児科に受診することになりました.


その日, Kくんはいつものように小学校に行ってお家に帰ってきました.

ただ, いつもと違うことがありました.

家にいるはずのお母さんはおらず,おばあちゃんが待っていたのです.


おばあちゃんは

「Kもお母さんも, すぐ帰ってくるわよ」

と言っていましたが,

実際にはお母さんもKくんも帰ってきませんでした.


その日はお父さんが帰ってきたのもすごく遅い時間でした.

Kくんは走って玄関に行って, 帰ってきてお父さんを迎えましたが,

お父さんの青ざめた顔を見て, びっくりしてたじろいでしましました.


おばあちゃんが家に帰って, お父さんと二人になりましたが,

お父さんはずっと俯いていて,

「明日からお父さんと二人で頑張ろう」というだけでした.


お母さんやお兄ちゃんのことを聞こうかと思いましたが,

お父さんの怖い顔を見て, やめてしまいました.


その日から3日間, お父さんと二人で

「もうお母さんにも,お兄ちゃんにも, もう会えないんじゃないか」

そう思いながら過ごしました.


学校に行ってからも

「今頃,お母さんとお兄ちゃんは何をしているんだろう.」

そんなことを思いながら,ずっと窓の外を見ていました.


その後の2週間はおばあちゃんのうちで過ごすことになりました.

夏休みなので, プールにいく約束がありましたがいけなくなり,

おばあちゃんのうちからは友達の家にもいけず,

ただただゲームをして 1日1日過ごしました.


スマホのTV電話でお母さんと話しました.

お母さんから

・お兄ちゃんが大きい病気になって病院に入院していること

・お母さんが一緒に病院に泊まること

・2週間したらお母さんが家に帰ってくることを聞きました.


そして,最後にお母さんから

「お兄ちゃんも頑張ってるから, Sも頑張ってね」

と言われました.


家でゲームをしていると,おばあちゃんからも

「お兄ちゃん,頑張っているんだからSも頑張らなきゃダメでしょ」

「ゲームばかりしてないで,勉強しなさい」

そう言って,怒られました.


Sくんは

「本当はプールにいく約束だったのに」

そう思いましたが,しょうがなく,勉強しました.


2週間経って,お母さんが病院から帰ってきて,

お父さんとお母さんと3人でお家で過ごせることになりました.


でも,前の生活とは全然違う生活が待っていました.

学校から帰ってきても,お母さんは病院に行っていて家にはおらず,

Sくんがお母さんの帰りを待つことになりました.


病院から帰ってくるお母さんはいつも暗そうで,

学校であったことを話そうと思っても,

言い出すことはできませんでした.


今までお母さんと一緒にやっていた学校の準備や宿題も

Sくんだけでやることが増え, 忘れ物をしたり,宿題を忘れることも増えていきました.


お母さんもそのことには気づいていて

Sくんに

「見てあげられなくてごめんね,もうすぐお兄ちゃん帰ってくるから」

と伝えました.


Sくんも

「お兄ちゃんが頑張っているんだから,僕も頑張らなきゃ」

そう思ってお兄ちゃんの退院まで過ごしました.


春になってお兄ちゃんが退院できて,やっと元の生活に戻れる,

みんながそう思っていました.

しかし,退院から3か月経ってKくんの再発がわかり,

Kくんはまた,入院しました.


【お兄ちゃんがまた入院した】

Kくんの入院で,Sくんの生活も,また元に戻ってしまいました.


学校が終わっても,誰もいない家に帰り,

一人でお母さんの帰りを待つ生活です.


そんなある日,Kくんが起きるとKくんはお腹の痛みを感じました.

そこで初めてKくんはお母さんとお父さんに

「お腹が痛いから今日は学校を休みたい」

と言いました.


するとお母さんは「大丈夫よ,頑張って学校にいきなさい」と言い,

お父さんもそのまま仕事に行ってしまいました.


そこでKくんは初めてお母さんに起こりました.

「お母さんもお父さんも,いつもお兄ちゃんのことばっかり.


 もういいよ.


 僕のことなんて大事じゃないんでしょ.

 僕なんていなくなっちゃえばいいんだ.


 僕だってお母さんとお父さんに心配して欲しい.


 僕だってお兄ちゃんみたいに病気になりたいよ」


その言葉を聞いて,お母さんもお父さんも,Kくんだけでなく,

Sくんもツラい思いをしていることに気がついたのでした.


KくんとSくんの家族の話はここまでです.

もしリクエストをいただけるようなことがあれば,続きを書きたいと思います.


【最後に】

【病気になる】と言うことは【人生が変わる体験】です.


そして,

【家族が病気になる】, と言うことは

 【家族の人生も変わる体験】なのです.


子どもの病気になり,入院するようなことがあれば,

 親御さんの関心は病気の子どもに集まります.


結果として病気や障害のない子どもは,

 関心が向けられにくくなり,

 “親がいなくても大丈夫な子”を演じるしかなくなるのです.


最初は頑張れたとしても,その頑張りは続きません.


体の症状が出たり, 学校に行けなくなったり,

 病気になりたいという気持ちさえ出てくるのです.


どれも自然なことだと思います.


病気の子どもだけでなく,

病気の子どもの影で頑張ってくれている“きょうだい”にも

光を当てたいと,


社会の大人として,小児科医として

そして,子どものリエゾンを行う医師として常々思っています.


ここまで読んでくださって, 本当にありがとうございました🌟


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

※この記事に書いてある登場人物は架空の人物です.

でも, この記事の中にあるやりとりは, 

   僕が小児科医としてリアルに体験したやりとりをもとに作られていて,

そう意味ではある意味とてもリアルです.

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

もし, この記事を読んで,

『面白かった』, 『他の記事も読みたい!』

と思ってくださったら👏 , RT, ❤️をお願いできれば嬉しいです.

励みになります🤗



4

参考になりましたか?
ハートを贈り=Dr. NK=子どもの心の相談室先生を
サポートしよう!

専門は
•小児の心身症
•発達相談
•病気をもつお子さん,きょうだい,ご両親のメンタルサポート
•虐待に陥ってしまった場合を含む子育て相談
です.

【公認心理師】の資格も保有してます.

3次救急を行っている当直医としても働いています.
お産の立ち会いにおける新生児の蘇生, けいれん, 呼吸器感染症, 喘息, 胃腸炎の対応なども行っています.

気軽にご相談ください☆