磨き残しや食べかすと虫歯について
40代女性
いつもありがとうございます
口腔内の食べかすは虫歯と関係があるのか、プラークは虫歯と関係があるのかをお聞きしたいです。
フロスやブラッシングをしないと歯間に食べかすが挟まったままだったり、歯と歯茎の間や歯の溝に食べ物のかけらが挟まったままだったり、プラークが歯に付着したままだったりしますが、
これらの「食べかす、食べ物のかけら」「プラーク」は虫歯の原因にはならないのでしょうか? 無関係なのか、関係があるならどのように関係があるのか知りたいです。
私が幼い頃から聞いて知っている虫歯のできる機序は、食べかす、食べ物のかけらがある(砂糖含む)→ミュータンス菌やラクトバチルスなど(?)が酸をつくる→歯を溶かす→虫歯 というような感じで、もしその機序であれば食べかすなどは虫歯の原因であり、それらを除去するフロスやブラッシングは虫歯予防に効果があるという理論(論理?)が成立する気がするので、お聞きしたいと思いました。
今回の質問に不要かもしれませんが飲食や口腔ケアの背景は以下の通りです
・1日5回以下の食事(飲食)
・糖を含む飲食は2時間開けている
・イエテボリ法実施中
回答済み
ご質問ありがとうございます。
食べかすやプラークがむし歯と関係あるのか?
という疑問ですね。
結論としては、あると考えられています。
ただ、プラークがむし歯の原因となる仕組みを考える以前に、もう一歩引いて、大きな視点で考えることも重要だと思います。
むし歯の予防方法を考える上で、考え方は2つあります。
一つは、
①演繹的アプローチ、理論を積み重ねて結論に至るアプローチと言い換えても良いと思います。
もう一つは、
②帰納的アプローチ、これは実証的な研究に基づいて結論に至るアプローチです。
①の演繹的アプローチはまさに、今考えておられるような考え方で、
歯にプラークがつく→プラーク中の細菌が酸を出す→むし歯になる⇒ということは、プラークを取り除けばむし歯予防になる。
という考え方ですね。
この方法の良いところは、研究デザインがシンプルであるところや、予測が立てやすいところです。
問題点は、元になる理論が間違っている場合は予測も間違える可能性が高いことです。
一方、
②の帰納的アプローチは、実際のデータ、つまり結果的にむし歯になったか、ならなかったかのデータをもとにその要因を考える方法です。
この方法の良いところは、実際のデータに基づいているので、現実の状況により近い結論が得られることです。より実践的とも言えると思います。
問題点は、データの質が非常に重要で、偏りが大きいデータをもとにすると誤った結論を導く可能性があります。
実際のところ、むし歯の予防方法はこの2つのアプローチを併用して研究されています。
①の演繹的アプローチで仮説を立てて、②の帰納的アプローチで実証するって流れであったり、
逆に②の帰納的アプローチの結果を説明するために、①の演繹的アプローチで裏付けするって流れであったりです。
ただいずれの場合であっても、現代において、②において現実の世界で実証が得られている方法が重要視されるのはご理解頂けると思います。
そのような理由で、現状において重要視されているむし歯予防方法が、フッ化物の応用であったり、食事のコントロールだったりするわけです。
もちろん、①の演繹的アプローチで、むし歯が出来る仕組みなどを考えることも重要ではあるので、余談になろうかと思いますが、お話します。
現在むし歯が出来る仕組みで支持されているのは「生態学的プラーク説」と言われるものです。”説”となっている点に注意してください。
あくまで仮説で、今後も違う仮説が出てくるかも知れません。
この説が出るまでは「プラーク中の特定の細菌がむし歯を引き起こしている説」VS「プラーク中の細菌の相互作用でむし歯を引き起こしている説(もっと言えば、プラークが悪い説)」でバチバチやっていました。そこで、「生態学的プラーク説」の登場です。
これは、もともとプラークは悪さをしないけど、環境が変わると、プラーク内の細菌のバランスが変わってしまって、むし歯を引き起こすとする説です。(注1)
環境が変わるというのは、例えば頻繁な糖の摂取などです。
この仮説で考えると、言ってみれば、善プラークと、悪プラークがあって、悪プラークにならないようにコントロールしながら、善プラークと共生しましょって考える事もできますよね。
もちろん歯磨きでプラークをコントロールするのは歯周病対策としては重要ですし、例えばキャラメルのような粘着性が高く歯にこびりついてしまう食べかすを除去するのはむし歯予防としても重要だと思います。一方で歯ブラシの毛先が届かない場所はたくさんあり、口の中のプラークを0にしたり、細菌を0にするのは現実的ではないので、歯ブラシに過度な期待をするのは禁物と言えると思います。
少し長くなりましたが、むし歯や歯周病予防のヒントにでもなれたら幸いです。
注1:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7865085/
2023年08月18日 11時55分
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