乳児 MRワクチン任意接種について
10歳未満男性
5ヶ月の乳児について質問させて下さい。
MRワクチンの任意接種を考えており情報収集をしています。
その中で、母体由来の移行抗体が残っているので免疫がうまくつかないかもしれない、というような情報を見ました。
こちらがどういうことなのか詳しくご解説頂けないでしょうか。
任意接種していれば、もし麻疹患者さんと接触した場合に、接種していない状態よりは安心出来る状態になるのでしょうか。
また、費用がかさむことや接種の痛みがあることの他にデメリットはありますでしょうか。
都内の外国人観光客がかなり多い地域に住んでいる為、多少なりとも効果があるならば是非任意接種してあげたいと考えています。(上手く抗体がつかないかもしれないこと、任意接種をしても定期接種2回必要なことは理解しております)
どうぞ宜しくお願いいたします。
ご相談いただき、ありがとうございます。
「MRワクチンの任意接種について調べていたところ、母体由来の移行抗体が残っていると免疫がうまくつかないかもしれないという情報があったが、どういうことか教えて欲しい。また、任意接種のメリット、デメリットはどのようなものがあるのか。」というご相談ですね。
とても重要なご質問をいただき、誠にありがとうございます。
それぞれお答えさせていただきます。
・母体からの移行抗体があると、なぜ免疫が付きにくいのか。
▶ こちらはとても大切な質問ですね。
赤ちゃんは妊娠中に胎盤経由で母親の感染症に対するIgG抗体(免疫)を譲り受けることで、生まれてすぐに重篤な感染症にはなるべくかからないようになっています。これを移行抗体、経胎盤免疫などと呼びます。満期産であれば、出生時にほぼ母親と同等の抗体を獲得できます。
この免疫によって、赤ちゃんは母親が感染しないような感染症にはあまりかからないようになりますが、風邪やインフルエンザ、RSウイルスなど大人でも感染することのあるものからは完全に守ることはできません(赤ちゃんでも風邪を引くのは、大人の免疫でも風邪からは完全に守ることはできないからという感じですね)。
少し話がずれましたが、その移行抗体はだいたい生後4〜6か月頃まで残りますが、徐々になくなってしまい、そこからは赤ちゃん自身の免疫力で感染症から身を守ることになります。
なぜ移行抗体が残っている場合に、MRワクチンを打つべきではないかを理解するには、2つのことが大切です。
① ワクチン接種は、お子さんが自分の免疫で反応することでその病原体を記憶して、免疫を獲得することを目的としている。
② 生ワクチンは生きたウイルスを弱毒化させてもののためか、移行抗体の干渉を受けやすい。
移行抗体(母親が持っていた麻疹(+風疹)に対する抗体)があると、MRワクチンを接種した際に母親の抗体が先に反応してしまうことで、お子さん自身の免疫の勉強にならないため、効果が得られないというイメージです。
もちろん移行抗体の変動には個人差がありますし、ワクチン接種の効果にも多少の個人差はありますが、接種が早すぎることでほとんど意味がなくなってしまうという可能性は否定できません。
・任意接種のメリット、デメリットは
▶ 直近での報告は減っておりますが、3月中の麻疹感染者の報告により、流行してしまう可能性を心配されて、任意接種を希望される相談は少なからずあります。確かに乳児の感染報告もあり、ご不安になられるお気持ちもよくわかりますが、任意で接種するメリットとデメリットはある程度考えて対応する必要があります。
*任意接種のメリット
・確実ではないものの、抗体を作ることができる可能性はあり、感染リスクを軽減できる(感染が拡大している、流行している状況であれば重要なメリットです)
*任意接種のデメリット
・効果が得られない可能性がある(有効性や安全性に関する情報が十分ではない)
・定期接種でも2回接種する必要があり、注射の回数が増える
・金銭的負担がある
・まだ気づかれない先天性の免疫不全症を抱えていた場合には感染してしまうリスクがある
私は日本小児科学会の方針と同様に、
MRワクチンの最優先接種対象者は「定期接種のお子さん」
その次に接種が検討される方が「定期接種を完了できていない方」、「0歳児や免疫が低下しているご家族を持つ両親や同居家族」、「妊婦の同居家族」、「医療・保育・教育の関係者」などと考えます。
0歳時への任意接種はもちろん可能ではありますが、周辺で明らかに感染の報告が増えてきた場合に緊急避難的に検討するというのが一般的な推奨状況です。
(参考:日本小児科学会 MRワクチンの接種推奨対象者について https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=266)
有効性と安全性のバランスから、現時点では積極的な任意接種はあまり勧められず、今後の流行状況は注意して様子をみつつ、1歳になった段階で速やかに定期接種として接種していただくことをおすすめします。もちろん、周辺で感染者の報告が増えてきてしまった場合には、その時点でかかりつけの先生とご相談いただくことをおすすめします。
お答えとしては上記となります。
ご参考になりましたら幸いです。
2024年04月11日 15時14分