指名:おとらりんたろう, MD, PhD 先生

風邪に抗生物質は意味がないというのは本当ですか?

30代女性

風邪を引いた時に抗生物質は意味がない、むしろ薬剤耐性菌の問題があり良くないという情報をインターネットで見ましたがこれは本当ですか?

今でも風邪で抗生物質を処方する病院があるようですが、それは少し知識が古いということなのでしょうか?

ご質問いただきありがとうございます。「風邪を引いたときに抗生物質・抗菌薬を投与することが意味がなく、むしろ問題である」という情報が正しいかどうか、ということですね。結論としてこれは概ね正しいと言えますが、いくつか気をつけるべき点がありますのでお話していきます。テーマとなるのは「風邪は基本的には自然治癒する」「ウイルス性感染に抗生物質は聞かない」「耐性菌が増えている」の3つです。


まず、「風邪」という病気の定義からすこしお話します。風邪というのは一般的に上気道(鼻、のど、喉頭、気管)に細菌もしくはウイルスによる感染を起こしている状態を指します。風邪の場合、とくにウイルス性感染がほとんどであるとされています。風邪を引くと熱、咳、鼻水、喉の痛みなどの症状がでますが、この症状はその部位に感染を起こし、体内の免疫細胞が戦っていることによって生じます。健康な方であれば多くの細菌・ウイルスについては自分の免疫力だけで治すことができるのです。

実際、熱を伴った風邪であっても、抗生物質無しでたいてい2,3日で快方に向かうことがほとんどです。


次に、抗生物質がどの様に効果を発揮するかについてです。抗生物質は、細菌の細胞膜を破壊したり、増殖を止めたりすることで「細菌感染」にのみ有効性をしめします。ところが、ウイルス性感染には全く効果がありません。風邪で多いとされるウイルスに効かないなら飲む意味がない、ということになりそうですよね。

しかし、実際には細菌感染で風邪症状がでることや、混合感染と言ってウイルスと細菌の療法に感染してしまうことがあるので、完全にやめたほうが良い、とまでは言い切れないのです。診察を受けたり検査を受けることで判定されますので、迷った場合は受診を優先し、診断を受けていただきたいです。


そして最後に、耐性菌の問題についてお話します。耐性菌というのは、抗生物質の有効成分を分解してしまうような機能を獲得した特別な細菌のことを指します。耐性菌は珍しいことではなく、私達の常在菌も耐性菌に置き換わってしまっていることがあることが知られています。特に1900年代後半、抗生物質の進歩に伴い、感染症に対して乱用されたため耐性菌が増加し問題になりました。このまま抗生物質の乱用を続けると、耐性菌の増加によって命を失う人が世界中で数千万人〜数億人におよぶという試算も出されています(詳しくは厚労省AMR対策ページを御覧くださいhttps://amr.ncgm.go.jp/)。


上記の3つの理由から、我々医師は風邪に対してむやみに抗生物質を出さないようにしているのです。少し長くなってしまいましたので、具体的な行動としては以下のように考えていただきたいです。

・発熱を伴う風邪症状であっても、2,3日間は様子を見るのが基本

・咽頭痛が強かったり、呼吸困難がある場合は治療を優先し医療機関を受診する

・医師の判断で、細菌感染を疑う所見があった場合に抗生物質の処方を受ける


以上、回答させていただきます。この回答がお役に立てば光栄です。またわからない事があればいつでもご相談下さい。

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2023年04月24日 22時20分


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耳鼻咽喉科専門医•指導医の音良林太郎@耳鼻咽喉科です。みみ、はな、のどの病気や、首の腫瘍など、気になることはなんでもご相談下さい。専門は耳科、聴覚ですが、めまい、鼻、頭頸部腫瘍、甲状腺なども扱います。
なるべく丁寧に、かつ医学的な根拠とともに解説することをモットーとしています。どうぞお気軽にご相談ください!

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