風しん麻しんのワクチンと抗体について

30代女性

30代女性です。幼少期にMMRワクチンを、10代の時にMRワクチンを接種しました。

しかし昨年妊娠中に風しん抗体を検査したところ、16倍で不十分という結果が判明しました。

1.妊娠直前にも風しんの抗体検査を自主的に受けていてその時は32倍でした。約半年で32倍から16倍に下がることはあるのでしょうか?

2.このたび産まれたばかりの子どもが母体から受け継いだ風しんの抗体も不十分な可能性は高いですか?

3.麻しんの抗体検査は受けたことがないのですが、麻しんも風しんと同様に抗体が不十分な可能性は高いですか?
抗体検査をすれば良い話ですが産後まもなく体調が優れないため外出が難しく…。

4.自分の体調が回復したらMRワクチンを接種したいのですが、2回ワクチンを接種しても風しん抗体が不十分な以上、何回ワクチンを打っても抗体が十分と言える値に到達しない可能性は高いでしょうか?

よろしくお願いいたします。

こんにちは。ご相談いただき、ありがとうございます。

幼少期にMMRワクチンを、10代でMRワクチンを接種しているが、妊娠中の風疹抗体価が16倍で不十分という結果だったが、抗体価が短期間で低下することがあるのか、お子さんへの移行抗体に問題はないか、麻疹の抗体価も低い可能性があるか、今後何回打っても抗体価が十分に上がらない可能性はあるのかというご相談ですね。

ご自身で事前に風疹抗体価を確認されていたこともあるということですので、よく調べられておられるかと思います。2回接種しているのにどうしたら良いのかと思われるかと思いますが、同じような方も少なからずおられます。実はまだ結論がはっきりしていない領域ではありますが、一般的な対応と私の考えについてお答えさせていただきます。


まず、風疹のワクチンを2回接種していても十分な抗体がつかない、もしくは低下してしまうことがあるかということですが、残念ながらこういったパターンもあります。

primary vaccine failure(1 次性ワクチン不全)といいますが、数%程度の確率で十分な抗体価がつかないことが知られています。またワクチン全般として、経時的に少しずつ抗体価が下がっていくこともありえます(secondary vaccine failure:2 次性ワクチン不全)。

こういった場合に3回目、ないし4回目と追加でワクチンを接種することで抗体が上がることはもちろんありますが、数年で数値が下がってしまうこともあります。その場合に4回、5回と抗体価が上昇するまで繰り返し接種するべきかというと、ここには明確な結論は出ていません。


日本環境感染学会の出している医療従事者のワクチンガイドライン(http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/vaccine-guideline_03(3).pdf)では、2回のワクチン接種記録が明らかにある場合には勤務する上で抗体検査は不要としています。これによって、少なくとも医療従事者は抗体価が上がるまで繰り返し接種を続けるということは現在は一般的には行われなくなってきています(以前は行われていました)。


ただ、妊娠を希望している女性の場合には、先天性風疹症候群のリスクをできるだけ下げるために感染の予防が期待できるとされている抗体価までなるべく上げておきたいというスタンスかなと思います。

例えば産婦人科診療ガイドラインでは、「HI 抗体価 16 倍である妊婦への産褥期風疹含有ワクチン接種の有効性については,明らかでないが,感染予防の視点から 16 倍以下の場合ワクチンの再接種を検討する」とされています。


ウイルス自体への抵抗性はいわゆる抗体価という液性免疫だけでなく、数値で測定することは難しい細胞性免疫も関与するため、抗体価が低ければリスクが高いかは明確に判断することは現時点では難しいというのが正直なところです。


上記の情報をもとにご質問への回答をさせていただきます。


① 約半年で抗体価が下がることはあるのか

→ 測定誤差もあるかもしれませんが、何度か測定した場合に多少変動することはありえます。また経時的な変化をみている場合は、感染した場合以外には徐々に下がってくることは十分にありえます。


② 生まれたお子さんの抗体も低いのか

→ 確かに一般的な印象としては母体の抗体価が高い方が、お子さんへの移行抗体は高い可能性はあると思います。ただ、個々のウイルス抗体価について明確に評価されていることはあまりないので、はっきりしないというのも事実です。

 また移行抗体は4−6か月程度でなくなってしまうため、1歳以降にMRワクチンを接種することで、お子さん自身の抗体をつけていくことが可能です。


③ 麻疹の抗体価も低い可能性はあるのか

→ こちらは推測することは困難です。風疹は先天性風疹症候群を防ぐために妊娠初期の母体における抗体価は測定されていますが、同時期の麻疹抗体価を測定することは一般的ではないため、はっきりとした傾向については申し訳ありませんが私もわかりません。

 今後MRワクチンを再度接種するつもりであるということでしたら、抗体検査などはせずに接種していただいて良いのではないかと思います。


④ 何回打っても抗体が上がらないことはあるのか

→ 残念ながら成人の方が抗体価の上がりが悪いことは多く、前述のように何回も接種することになる可能性は否定できないと思います。しかし、抗体価だけで感染リスクを完全に把握できるわけでもないので、何度接種するかは担当の医師としっかりご相談いただければと思います。

 再度妊娠された場合には、妊娠初期に検査をされると思いますが、妊娠されなかった場合に追加で検査する必要はないのではないかなと思います。


上記となります。長文かつやや専門的な内容を含んでおり、わかりにくいかもしれませんが、ご参考になりましたら幸いです。

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2023年06月08日 17時13分


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