麻しんについて

ご質問ありがとうございます。

麻疹について、ご夫婦で麻疹のワクチンを接種。3歳半のお子さんがおり、1回接種している。かかりつけで相談したが、次は定期接種でよいだろう、とのこと。麻疹の情報に接し、不安が大きくなっているが、恐怖心とどう折り合いをつけたらよいか、というご質問ですね。

まず、しっかり受診して相談されているのが素晴らしいと思いました。お薬も上手に使って、まずは主治医の先生の方針に従ってください。

で、それはそれとして、麻疹についてのお話をしようと思います。

麻疹の感染力の強さや危険性については、もうご存知かと思いますので割愛します。

日本での麻疹なのですが、1990年代ごろまで、麻疹は数年ごとに大流行を繰り返していました。2000年〜2001年には全国で20〜30万人の患者が発生したと推計され（アメリカはたったの100人程度）、このままではいかんということで「1歳の誕生日にワクチンを」のキャンペーンなどが展開されました。予防接種率の向上にともない麻疹患者さんはどんどん減り、2015年には土着の麻疹ウイルスが３年以上いない「排除状態」と認定されました。

簡単にいうと、麻疹のウイルスは通常日本にはいない、ということです。

じゃあ今時々話に出てくる麻疹のウイルスはどこから来たかというと、海外です。海外からの持ち込みにより、ポツンポツンと麻疹患者さんが出ます。

麻疹は感染力が非常に強いので、感受性がある人（免疫がない人）がいるとうつります。そして流行が広がります。ただ、95%の人が免疫を持っていれば、計算上流行は収束します。

感染する以外に免疫を持つにはどうしたらいいかというと、ワクチン2回接種です。

ところが、ワクチン施策の事情等で、ワクチンを1回しか接種していない世代があります。0回の世代もあります（この世代は感染してしまっている人が多いのですが）。ワクチンをうったかわからない人も大勢います。

なので、麻疹患者さんが出た時に、私や他の先生方などが、呼びかけるのです。「ワクチン2回接種していますか？」

呼びかけることで、2回接種していない人が自分は危険に晒されていることに気づいてほしい。また、ワクチンをうてない赤ちゃんや妊婦さん、病気の人を、95%の人が接種することでまもってほしい、という気持ちがあります。

ワクチン1回接種で、95%の人は免疫を持ちます。と言われていますが、添付文書（薬の説明書）を見ると、約99〜100%が抗体が陽性になるんですね。

それでも1回接種で抗体がつかなかった人+1回だと徐々に抗体価が下がってくる人がいるので、もう1回接種することで、ほぼほぼ100%の人が麻疹に対する免疫を持つことができます。

長くなりました。

要するに、2回接種していれば、基本的に麻疹は怖くない病気です。新型コロナのワクチンとは違い（あれは重症化予防がメインです）、麻疹ワクチン2回接種していれば発症しません（確率は低いですが、もし発症しても修飾麻疹という軽い麻疹で済む）

お子さんについても、上記のように1回で免疫がついている可能性の方が圧倒的に高いので、今後よほど周辺で流行しない限り、また海外に行く予定がない限り、定期接種を待って十分ではないかと思います。

また、麻疹患者さんに接したことがわかった場合は、72時間以内であれば麻疹ワクチンを受ける、6日以内であればガンマグロブリンの投与を受けることで発症を予防することもできます。100%ではありませんが、そういう対策もあります。

かつ、上の方で書いた通り、日本には麻疹のウイルスは通常いません。なので、散発的に持ち込んだ症例は出ますし、そこに感受性がある人がいると広がりますが、その数は（少なくとも今のところ）十分追える程度です。

その人とすれ違う確率は、それこそ約1億分の1、年末ジャンボ宝くじ1等に当たる確率は2000万分の1らしいので、それよりはるかに低いことになります。

長くなりました（再び）。

まとめますと

・麻疹は怖い病気です

・でも2回接種したらほぼほぼ怖くない病気です

・日本には麻疹患者さんはほとんどいません

・万が一接触しても対策があります

ということで、我々医療従事者は麻疹の情報を今後も発信しますし、危険性を呼びかけますが、それはワクチンを2回接種していない人＆ワクチンを接種できない人に対してなんだなーということを知っていてもらえたらと思います。

恐怖心というのは理屈ではないので、私のこの長ったらしい説明では拭えるものではないかもしれません。ただ、知っていることで、少し気持ちと折り合いをつけられる部分があるのではないか、と考えてご説明させていただきました。

知って、それでも怖い部分は、主治医の先生とご相談しながら治療を進めていただけたらと思います。

あまり参考にならなかったかもしれませんが、質問者さまが少しでも楽に過ごせることをお祈りしております。

参考

https://www.med.kobe-u.ac.jp/pediat/pdf/takatou18.pdf

https://www.medience.co.jp/forum/parts/pdf/2008_04.pdf

https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/636940CD3048_1_04/

https://www.biken.or.jp/medical/product/198